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after Birthday ※視点は惠

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僕の考えた惠ルート ※視点は智

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chapter 6 


「な、なんという伏兵……!」
「電波系、僕女、金持ち、どこまで人のキャラを奪えば気が済むのかこの男装」
「まさか、この街にこんなお屋敷があったなんて」
「メグム、お嬢様だったんだねー」
「すごいとしか言いようがないであります」
 それぞれがそれぞれの歓声をあげる。約一名嫉妬してる人もいるけど。
 惠の提案は、全員の「行く!」の二つ返事で可決した。日々は楽しくも、若干のマンネリは全員が感じていたのだろう。好き勝手に出歩けない僕らにとって、気兼ねせずに行ける新たなスポットはまさに福音だった。
「ようこそ。心より歓迎しよう」
 あふれんばかりの期待を顔に出す僕らの前で惠が宣言し、重そうな扉を開く。
 きしむ音まで高級感。
「おかえりなさい、惠さん」
「おかえりなさいませ、惠さま」
 そしてさっそく、期待に応える人物のご登場。
「メイド出たー!」
「服装まで予想通りとは」
 出てきたのは、物腰柔らかなおさげの女性と頑固そうなおばあさんの二人。おばあさんはともかく、おさげの女性は第一印象から既にメイド姿が板に付いていて、この光景がドッキリでないことを証明している。
「ケ、ケンカ売られてる……!?」
 花鶏、ジェラシーレベルアップ。
「買うだけ無駄無駄無駄無駄ァ、この没落貴族め」
 すかさず煽る茜子。
「くっ……!ストライクゾーンなのがさらに腹立たしいっ……!」
「ひとんちでぐらい自重しろ」
「出会いはどこに転がってるかわからないのよっ!」
「喜んでるのか悔しがってるのかわかりません」
「どっちにしろいただけない」
 哀れ、歯ぎしりしても目の前の現実は変わらない。ハンカチ噛みちぎりそうなほどギリギリしてもメイドさんはご健在です。
「仕方ないわよ、こんな立派なお屋敷、ご家族だけではいろいろ不便だと思うもの。お手伝いさんを雇うのは自然じゃないかしら」
 なだめる伊代。例によって空気読めてない。ていうか花鶏がやきもち焼いてるてるのはそっちじゃない……。
「人件費は最大の経費なのよ! 衣装代だって馬鹿にならないわ! 下着だってシルクの高級なのを用意するし!」
「そっちもですか」
「悔しがる部分もリアルなのね」
「財政厳しくても下着はこだわるんだ……」
 セクハラ要素以外の本音も出てしまうあたり、人件費あたりの事情は相当切実なんだろう。それがわかるって時点ですでに貴族から外れてる気がする……というのは禁句だろうなぁ。
「それにしても、メイドさんって実在するですねー! 初めて見ました!」
「こう、お屋敷! って感じがするよね!」
「茜子さんは捜索が楽しみです。拷問部屋とか、金の鍵の部屋とか、鉄の処女とか、メイドのガーターベルトの下は投げナイフと拳銃とか」
「余計な属性つけない」
「メイドと戦闘民族は同義語です。あとメカ仕様」
「ものすごい偏見だ」
 オトナの事情は気にしない一派はこれまた別の方向で盛り上がる。
 やいのやいの、雑多な方向ににぎやかな僕ら。その様子を見て、物腰柔らかなメイドさんがさらに嬉しそうに顔をほころばせる。
「うふふ。本当に、大勢いらしてくださったんですね」
「お茶を用意してもらえるかい、佐知子」
「ええ、もちろん。今日は美味しいお茶菓子が入っていますよ」
「甘いものじゃないほうがいいなぁ」
「人の家にお呼ばれしておいて贅沢言わないの」
 るいの脊髄反射にすかさずツッコミを入れる。それじゃ花鶏に自重しろって言えないよ、まったく。
「それでしたら、おせんべいも用意しましょうか」
 だがしかし、メイドさんに隙はなかった。
「完璧すぎる、完璧すぎるであります!」
「全面同意」
 こよりの歓声に思わずうなずく。仕草といい見た目といい服装といい反応といい、失礼なことを言われても軽く流す気配りといい、この人は僕らの頭の中にある多分に妄想を含んだメイド像そのものだ。
「……か、勝てない……」
 敗北を悟り、がっくりとうなだれる花鶏。プライドが崩れ落ちる音が聞こえる気がする。
 まあ、花鶏が撃沈するのも無理ない。
 お屋敷は、外観だけでなく中も超一流。派手ではないものの、壁や照明はもちろん、階段の手すりやドアノブに至るまで、あらゆるところにしっかりと細工が施され、かつそれらがきちんと調和している。調度品も適度にアンティークさを感じさせる、センスの良いものが並ぶ。こんな立派な建物、今時めったにお目にかかれない。花鶏の家も広かったけど、正直なところ、こことはレベルが違う。
「さあ、食堂へ案内しよう」
「待ってましたー!」
 各々スキップ状態で、初めての体験に目を白黒させながら惠の後ろをついていく。僕も例に漏れず、旅行気分であちこちを観察しつつ板張りの床を踏みしめる。
 日本も意外と広い。こういうシチュエーションは映画や海外のセレブの専売特許だと思ってたのに、こんなに身近に実在するとは。
 こうなると、惠のご両親の職業も気になってくる。日本版アメリカンドリームかもしれないし、綿々と続く名家かもしれない。いずれにしても普通じゃなさそうだ。
「そういえば、ご両親にご挨拶をしなきゃいけないわね」
 思考の流れは一緒なのか、伊代がふと口にする。確かに、こんな大人数で押し掛けてるんだし、挨拶ぐらいはしないと失礼だ。手みやげのひとつも必要だろう。迂闊だった、次はきちんとしないと。
「その必要はないよ」
 が、惠はさらりと伊代の申し出を断った。
「え、でも」
「さっきの二人と僕。屋敷の住人はそれだけだからね」
 こともなげにそう言う。あくまで平静な調子。
「こんなに大きなお屋敷なのにですか」
「ああ。だから、君たちが来てくれただけで十分なんだ」
 振り返り、笑いかける惠。大したことじゃないと、それ以上の追求を退ける。
「そっか」
「……ああ」
 さっきの二人はどう見ても惠の血縁者には見えなかった。
 ということは、そういうことだ。
 両親の、家族の不在。
 おなかの下あたりがきゅっとする。今度はあまり嬉しくない、惠と僕の共通点。
 惠が僕らを招いてくれたのは、そのあたりもあるのかもしれない。
 入れるべき人すらいないパーソナルスペースは、とても寂しいものだから。

「ありえない、ありえないわ……狐に化かされてるか長い夢を見てるか、そうよこれは夢よ!」
「往生際が悪い」
「というわけで智! 夢と現実の判別のためにその柔肌を揉ませなさい!」
「どう考えてもこじつけでしょそれー!?」
「ほっぺたつねればいいじゃん」
「この私の肌に傷をつけるなんて世界の損失よ! ウイルス入りエロ動画よ! さあ智! こよりちゃんでもいいわ!」
「TPOぐらいわきまえなさい!」
「それ以前の問題だと思いますぅぅぅ」
 諦めの悪い花鶏が衝撃からセクハラへとナチュラル移行を開始する。転んでもタダでは起きないあたりがらしい。
 今回の注目ポイントは紅茶。佐知子さんといったか、メイドさんが淹れてくれたお茶がこれまたクオリティが高かったのだ。カップに注がれた瞬間から立ち上るバラの香りは明らかに天然もの、それも高級品だというのが素人にもわかるほど上品でフルーティ、香りが飛ぶのがもったいないぐらい。本当に次元の違う世界に迷い込んでしまった気分。もう時計を持ったウサギとか縞々の大きなチェシャネコが出てきても驚かない。
 紅茶をいただく惠がこれまたサマになっている。王子様の格好でもしたら童話の再現いっちょあがりって感じだ。……惠は女の子だけど。
「おおおぉ……甘さの中に混じる塩加減がぜつみょー! これはいける!」
「浜江の手作りなんだ。たくさんあるから、遠慮しないでいい」
「浜江さんって、おばあさんの方?」
「ああ」
「んん〜、年の功が胃に染みるぅ〜!」
「おせんべいも用意しましたから、召し上がってください」
「いやっほー! あれ、伊代は食べないの?」
「美味しさとカロリーは比例するのよ」
「そんな親の仇を見るような目をしないの」
 るいは相変わらずハンターだった。いや、むしろ飢えた獣か。目の輝きが半端ない。それをジト目で見る伊代。僕から見たら両方おっぱい星人……じゃなくていいプロポーションだと思うんだけど、女の子にはそれぞれ譲れないラインがあるらしい。
「椅子があるっていいわね」
「たまり場は外ですからねー」
「私としては地べたに座ったこよりちゃんのパンツを見るのが楽しいんだけど」
「と、盗撮ですか!?」
「智はいつも黒なのよね。たまには白も見たいわ」
「いつの間に」
「赤外線スコープ全開、色情狂は年中無休のようです。ターゲットご愁傷様」
「油断も隙もない……」
 青ざめる。想像以上に油断ならない日々、わが道程はいつでも吊り橋なり。スカート穿かなくていい惠が羨ましい。
 クッキーやおせんべいを割る音がリズムよく会話に混ざり、紅茶の香りが広がっては溶けていく。時代遅れの時計が奏でる針の音が小気味よく響く。
 おやつの時間。単純なようで、実際には幻だったスケジュール。
 ひとりで三時になにか食べたところで、それは単なる間食だ。「みんなと一緒」が意味を持つ。
 無味乾燥だった周りが着実に色づいていく。痣持ちの七人が世界を彩っていく。テーブルを囲み、みんなでお菓子を食べながら談笑する、普通の人々にとっては価値すらないような些細なことが、僕らに色を教えてくれる。
 色の名前は、興味。全人類が「その他大勢」だった僕らに与えられた、手を取り合える仲間たち。
「……」
 伊代が両手を膝に置いて、じっとお皿を見つめている。お行儀が良い……というのではなく、おそらく我慢しているんだろう。ダイエットと食欲の仁義なき戦いもそろそろ限界らしい。
 なにせ、ここに来て我々の脳髄を刺激するリーサルウェポンが投入された。
「いい匂いがしてきたです」
「浜江が追加を焼いてくれているみたいだね」
「ふ、ふふ……もう驚かないわ、この際ブルジョワジーをとことん堪能してやるわ」
「お菓子が焼けるときってどうしてこんなに幸せなんだろう」
 キッチンから漂ってくるのは、温度さえ感じそうな甘くて香ばしいクッキーの香り。まだ実物を目にしてもいないのに口の中が湿ってくる。乙女の嗜好と食欲のツボをがっちり押さえたストレートなアプローチに、自然、目線がキッチンへ向いてしまう。戻す。また向く。
「……ぐ、ぐぐぐ」
 そんな焼きたてお菓子の幸せを苦悶に感じるダイエッター伊代。決して太ってないし、我慢して顔歪めるより好きなだけ食べて笑ってた方が魅力的だと思うんだけど、当人いわくそれは欺瞞なんだとか。もったいない。
「どしたの? おなかいたいの?」
「この不公平型胃下垂娘め」
「へ? 私別に病気じゃないよ?」
「食べたものが胸に行くってのは病気かたたりであってほしいわ……」
「そこまで言わなくても」
 周りの非難もどこ吹く風、むしろ意味がわからん状態のるい。これはこれでほほえましい。
「おお、焼きあがったみたいです!」
 こよりんのうさぎちゃんセンサーが反応した。みんな一斉にキッチンを凝視する。
「あらあら、お待たせしてしまいましたか?」
 出てきたのは佐知子さんとバスケットからあふれんばかりのクッキーの山。脳内で大歓声。これは、まぶしささえ感じる……!
「焼きたては崩れやすいですから、おひとりずつお配りしますね」
「なっ!」
 佐知子さんの気配りにうっかり声を出す伊代。
「いらっしゃい、めくるめく甘味とメーター絶叫の世界へ」
「せっかく配ってくれるのに断るってことはないよねー?」
「う、うう」
 しおれる。いや、だからそんなに気にすることないんだってば。
 流石にその申し出にノーとは言えないか、伊代は覚悟を決めたかのように両手の指を組む。
 と。

「あ、そうです。みなさんのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 ―――。
 不意打ちだった。
 佐知子さんの質問に、場が止まる。
 名乗ること―― 伊代の、呪い。
 しまった。この展開、予想してしかるべきだったのに。
「本当は最初にお伺いすべきだったのですが、タイミングを逃してしまいましたから……ええと、よろしければおひとりずつ」
「僕から紹介してもいいかな。大事な友人たちだからね」
 惠が割って入る。微妙に回りくどい言い回しなのはいつものこと。佐知子さんが表情を変える間もなく、僕らへ呼びかける。
「それでいい? みんな」
 みんな、といいつつ、聞いているのはひとりだ。
「……え、ええ、お願いするわ」
 冷静を装いながらも、やっぱり動揺が出てしまう伊代。惠は伊代に視線を合わせ、軽く頷く。
 自己紹介ぐらい、本当はたいしたことじゃない。他人の家に行って名乗るのは基本的なマナーだし、聞くのもマナー。佐知子さんは当然のことをしたまでだ。
 ただ、それすらままならない呪いがある、というだけ。
 配慮が足りなかった。僕らは呪われた存在。どこにいたってそれは同じ。いついかなるときにも呪いを踏むことがないよう、最大限の注意を払って生きていかないと――

「助かったわ、ありがとう」
「いや、気にしないでくれ」
 惠による他己紹介の後、佐知子さんは掃除をするといって食卓から出て行った。浜江さんだったか、おばあさんも出掛けているらしい。
 場には、呪い持ち七人のみ。それぞれ複雑な表情だ。
 取るに足らない、ごくごく普通の振る舞いにさえ制限がかかる僕たち。
 ため息をつきそうになるのを抑えて、全員の顔を見回す。
「……いい機会だから、この際話し合ってみようか」
「話し合うって、何を」
「呪いについて」
 口にした自分でさえ、息が詰まる。みんな少なからず予想はしていただろうけど、いざ議題にあがるとなると、場が一気に緊迫するのがわかった。
「そんな、気にしないでいいのよ。今回はたまたま私が失敗しちゃっただけだし」
「そうでもないです」
 切り替えようとする伊代の言葉をさえぎったのはこよりだ。
「こよりは、数日前に呪いがらみで智センパイの助けを借りました。智センパイいなかったら大変でした」
 きゅっと唇を噛むこより。起きた出来事そのものはちっぽけなことだ。でも、対峙したことそのものが、運命を、恐怖を刻み付ける。
 だから、それを避ける方法を探っておきたい……僕個人は、そうも思う。
「それぞれの呪いを知っておくことが、お互いのメリットになるかもしれないってこと?」
「メリットかどうかは判らないけど、ストッパーにはなると思う」
 今回の場合、惠が伊代の呪いに気づいていなければ、事態はもっと面倒なことになっていただろう。こよりの呪いにしても、知っていれば彼女が呪いを踏まないように何かと手を回してあげることができる。助け合いのためには、相手が何を欲しているかの情報も必要だと、
 そう、思う。思うけれど。
「気づくのは勝手ですが、自己申告する必要は感じません」
 茜子が言い放つ。彼女の呪いはおそらく一番わかりやすいだけに、その言葉の意味するものも重い。
「私も反対だわ。助けなんか要らないもの。最も、私の呪いは誰も気づかないでしょうけど」
 賛同する花鶏。その目には明確な拒絶の意思が見て取れる。
 予想はしていたけど、先行きは絶不調だ。そもそも僕自身が呪いを公開できないんだから、みんなに明かしてと言う方がおかしい。
 僕の呪いは、気づかれたその瞬間に踏んでしまう。だからこそ僕はうそつきで、本質的にみんなを騙し続けている。
 矛盾だ。自分は隠し他人は暴くなんて、都合の良すぎる主張だ。
「智の意見も一理あるけど、これはかなりデリケートな問題だと思う。対応を統一するより、個々の自由に任せた方がいいんじゃないかな」
 惠も反対派みたいだ。ここまで反対が連続すると、場の雰囲気はそちらへ流れる。多数決とか取るまでもない。
「うん、じゃあ呪いの公開はなしということで。僕も呪いの公開は困るし」
「いいだしっぺがそれか卑怯者」
「うん、ごめん。僕の場合、呪いを知られることが即呪いを踏むことになっちゃうから」
「それはまた、難儀な呪いだね」
「わからないとなると知りたくなるわ」
「さっきと言ってること違う」
「知られるのはごめんだけど、知るのは大歓迎よ」
 舌なめずり。両手不穏な動き開始。視線、エロスオーラ充填。って待ったー!
「やーめてー! とりあえずこの話題ストップ! 次の議題に移ります!」
 花鶏の性的衝動が幸いにもイヤなムードを薄めてくれた。チャンスを逃さず話を進める。
「次の議題なんてあるの?」
「あるんです、これが。僕も半信半疑なんだけど」
 るいに花鶏を抑えてもらい、再び席につく。
 ちょっと背を反らして深呼吸。
 第一セッションは、明らかに失敗だった。ならば、第二セッションはなんとしても成功させなくては。幸い、第一に比べたら抵抗感は薄い、と思うし。
「えと、それでは」
 咳払いをひとつ。全員の視線が集まったことを確認する。
「この間、いずるさんに聞いたんだけど、僕らには呪い以外にも特別な何かを持っている可能性があるらしいんだ。だれか、そういうの持ってる人はいない?」
「特別な何か……ねえ」
 顔を見合わせる一同。
「……やっぱ、ないかな。そういうの」
「あるわよ」
 肯定したのは花鶏だった。
「あるの!?」
「そりゃあもちろん。これは聖痕よ? 呪いだけなわけないじゃない」
「……そ、そっか」
 確かに、花鶏の性格的に、デメリットしかないものをあがめたりしないだろう。メリットが大きくて、そちらを重視してるからこそ、聖痕なんて呼び方が出てくるのか。
「他のみんなは?」
「あるよ」
「ありますよー」
「あるわ」
「ありますね」
 さっきとは逆に、次々に肯定票が集まる。
「……」
 答えてないのが二名。僕と、もう一人。
「あれ、惠は持ってないの?」
「さあ、どうだろう」
 独自の反応が出た。肯定も、否定もしていない。
「別に隠すことじゃないでしょ? 内容は聞いていないんだし」
「あるといえばあるかもしれないし、ないといえばないかもしれない。それを才能ととらえるかどうかも、結局は個人の感覚によるんじゃないかな」
 やっぱり答えてない。
 答えにくい、ということだろうか。それとも呪い絡み? どっちにしても、このままだと空気が悪化しそうだ。
 助け船発進。ついでにカマもかけてみる。
「あ、えーと」
「どしたの智」
「僕は、ないんだよね。そういうの」
「……は?」
「え?」
「……君には、ない……?」
 目を丸くする六名。はい、惠さんダウト。
「『君には』ってことは、惠にはあるんだね」
「おお」
「陰険貧乳の卑怯説法出た」
「今回ばかりはほめてつかわす」
「……」
 あ、機嫌悪くしたっぽい。一本取った。ちょっと嬉しいかも。
 まあ、今はそれどころじゃない。惠にも特殊な才能があるってことは、僕だけ仲間外れってことでもある。
「カマかけはともかくとして、僕にそういう力がないのは確かだよ。全然思い当たらない。みんなのは、能力だってはっきりわかるものなの?」
「少なくとも普通じゃないわね。内容は言わないけど」
「茜子さんのこれが能力でなかったなら、いまごろ地球は破滅してます」
「フェアじゃない……と思う程度には、特別かな」
「私みたいなのできる人、見たことない」
「この能力だけがとりえですから」
「茜子に同意しておこうかな」
 少なくとも常識レベルではないらしい。
「智、本当にないの?」
「うん、みんなが言うような明らかに特別な何かっていうのは思い当たらない」
「気づいてないだけじゃ?」
「能力に気づかずに過ごすってのは相当な鈍感でないと無理かと」
「敏感だものね、智。そりゃもうぐちゃぐちゃのトロトロにしてあげたいわ」
「路線変更禁止!」
「本当に、ないのかい」
「うん」
「……そう」
 一瞬、惠の表情が別の方向に動いた気がした。うっかりアドリブが混ざったような感じ。惠にしては珍しい。
 ……それほど、僕に能力がないことが意外だったんだろうか。自分が能力と呪いを持ってるから他のみんなも、とは誰もが思うことだろうけど、今の今までその根拠はなかったはず。ましてや惠だ。僕より先手を打つキャラだ。
 形のつかめない、妙な違和感。でも、それはすぐに議論にかき消される。
「てことは、呪いと能力は別のものってこと?」
「七人中六人にあって、一人だけないとするなら、一人の方がイレギュラーよね」
「本人が知らずに使ってる可能性も捨てきれないし」
 ……第二セッション、雲行きが怪しくなって参りました。それも主に僕のせいで。
 往々にして、人は自分の尺度で物事をはかる。常に自分が属する方が多数派だと考えてしまう。元々が呪い持ちという超少数派だというのに、その中では多数派だと考えてしまう。自分が多数だという根拠は何もないのに。
 そうだ、冷静に考えてみれば、僕が少数派な部分がもう一つある。
 性別。
 僕以外は、みんな女の子だ。
 ……僕だけが、イレギュラーの中のそのまたイレギュラーってこと?
「智? どうしたの、顔色悪いよ」
「あ、いや何でもない」
 誰が聞いても怪しすぎる台詞を返してしまい、さらに慌てる。なんか冷や汗出てきた。
 そんな僕を見て、茜子がため息をつく。
「司会進行がピヨっては、話の進めようがありませんね」
「それに、無理して話すことでもないわ」
「ごめんなさい、私がヘマしたから」
「伊代センパイは悪くないですよ」
「次から気をつければいいんだよ」
「この家には僕とあの二人しかいないからね。これからは気にしなくて良くなるだろう」
 それぞれ、口々に伊代のフォローをする。一見優しさに見える言葉。裏側には、これ以上呪いの話しをしたくないという意志が見え隠れする。その気持ちは分かる、多分一番わかっている。
 このまま議論が続けば、一番立場が危うくなるのは僕だ。
 呪い持ちの中の、多数派と少数派。本当は、そんな派閥自体があってはならない。僕らは、あくまでも、ひとつであるべきなんだ。
 ひとつであるべきだけど―― そうはなれない理由が、僕の前に横たわる。
 疎外感が、ふらりと心に忍び込む。じっとりと、染み込みはじめる。
「智」
「え」
 小さな囁きを耳が捉えた。惠だ。
「気にすることはないよ。理由はいずれ明らかになる」
「……?」
 穏やかな口調でも、内容は断定。励ましとも事実ともつかない、確信に満ちたフォロー。
 口先だけの慰めとは違う、戸惑いのない響きだ。煙に巻くのが使命の惠にしては、異質ですらある。
 だから、その言葉が、魚の小骨みたいに引っかかる。
 安心するより先に疑問が浮かんでしまう。
 惠。君は、何かを知っている……?